制度信用を使った優待クロス

(1)制度信用と一般信用の違い

制度信用と一般信用の違いは、「逆日歩」という追加コストがかかる点を挙げることができます。一般信用の場合は逆日歩がかかりませんので、利回りが完全に固定されます。制度信用の場合、後出し(翌日)になってから逆日歩が発表になりますので、クロスを組んだ時点で利回りが固定されないという特徴があります。

そして、さらに特徴となる相違点があります。それは、「配当落調整金」です。

一般信用でクロスすると、価格変動リスクは現物買いと信用売りで相殺されます。配当についても、現物側の配当と信用売り側の配当落調整金が同額なのでこちらも相殺されます。これに対して、制度信用でクロスをした場合には、制度信用売り側の配当落調整金が84.685%(15.315%引き)で済みます。

制度信用売りの配当落調整金が15.315%引きなのは、(恐らく)偉くて頭の良い人が、源泉徴収が行われる現物株の配当との対比として、公平な信用配当落調整金とはいかなるものか、と考えた結果・・・所得税分を差し引いたということのようですが、結果として

一般信用売り: 逆日歩の保険付き金融商品
制度信用売り: 逆日歩の保険は付いていないが配当の約15%分がお得な金融商品

という構図になっています。貸株料も制度信用の方が低いのはご存知の通りです。

つまり、制度クロスでは配当の約15%分(厳密に言うと、この「15%」には税金がかかりますので、正確には「12.2%」となります)が、逆日歩による損失に対応するための原資となるわけです。(ここから先は、「15%」を「12.2%」と表記します)

逆日歩が配当×12.2%より少なく収まるんだったら、制度信用の方が一般信用よりも得だね、いうことです。

優待クロスをセットしてから現渡しまでの期間についても、また、貸株料についても制度信用の方が有利ですので、厳密には12.2%を少々上回る逆日歩になっても制度信用の方が一般信用よりも費用面で秀でた結果となるハズです。

(2)「12.2%」を守る話とランク付け

制度信用クロスを組むと、配当落調整金として12.2%を受け取ることができます。つまり、制度信用クロスの逆日歩がこの12.2%の範囲内で収まる場合には、「制度信用クロスによって利益を得ることができ、しかも優待商品も得られる」ということになります。これは一般信用を使った優待クロスでは考えられないことです。

そこで、配当落調整金の12.2%を守れるかどうかという観点で、以下のようにランク分けをしてみます。

●Aランク
逆日歩が配当の12.2%を下回る傾向があるため、制度クロスから利益が得られ、それに加えて優待も得られる(上述の通り)

●Bランク
逆日歩が配当の12.2%とほぼ同じ水準までに抑えられる傾向があるため、制度クロスによる費用がほとんど発生しない(優待だけ届く。つまり、一般信用と経済的効果は同じ)

●Cランク
配当の12.2%を上回る逆日歩が発生しがちだが、優待価値を考慮すれば制度クロスをする価値がある

Aランクの銘柄で制度信用クロスをした場合、過去の傾向に沿った結果になれば、現金的な利益が出ます。一般信用ではあり得ないことですので、一般信用の在庫供給がある場合であっても一般信用を選択する積極的理由がないことになります。

Bランクでは、制度信用の直接的な利益は乏しくなります。Bランクの下限(Cランクとの境目)の銘柄では、クロス費用(逆日歩)が配当落ち調整金と一致し、結果が一般信用と同じになりますので、一般信用の逆日歩保険的な機能を重視して一般信用でのクロスを選択するのも合理的選択といえます。

Cランクでは、制度信用による逆日歩が12.2%を超え、優待価値を食い込む形になります。一般信用でクロスを振れない銘柄であっても、無理矢理制度信用でクロスすることによりプラスを狙うような場合に限って、このランクの銘柄が制度信用クロスの対象となります。

(3)制度信用を活用することによるメリット
AランクとBランクの銘柄では、一般信用の在庫が権利日直前まで残る傾向があります。権利日直前まで在庫が残る銘柄を発見したときに、それがAランクもしくはBランク銘柄だと判別できれば、在庫確保を遅らせる根拠とすることができると思います。また、2月の権利前に3月分の一般信用を確保した場合、資金の逼迫により2月の権利を複数諦める選択につながることがあります。制度信用のランク付けにより在庫確保を遅らせることができれば、結果的に一般クロスを選択する場合でも資金効率のアップが望めます。

このように、制度信用側から見ると、一般信用側からでは見えなかった側面が見えてきます。「ランクAもしくはランクBの銘柄をできるだけ多く発掘する」ことが、制度信用を使う上でのポイントになるのです。

さらに、別のメリットも期待できます。

まず、一般信用のように在庫確認を頻繁に行わなくて済むため、時短効果が期待できます。さらに、Aランク・Bランク銘柄への信頼が高まっていけば権利日の前日辺りから行う、制度信用関連の各種点検作業もかなり省略できることになります。また、一般信用の供給がないランクB銘柄であれば、一般信用ではできなかった優待クロスができることになります。

一方、巨大な逆日歩が発生するタイミングを避け、逆日歩が少ない時だけを狙い打ちにするというのは、実際には「労多くして功少なし」になりがちのような気がします。「お日柄」も確かに大事ではあるのですが、その前にランクA・Bの銘柄をできるだけ多く発掘することが制度信用を使いこなす上での目標として適切のような気がします。毎回、これはどうかな、あれはどうかな? ではなく、予め銘柄ごとのランクを確定しておくという感じでしょうか。

たまに逆日歩を食らっても平均的に見れば資金負担は最終日だけで済むわけですし、ロボットを作ればクロスは容易にできます。「制度信用で行く銘柄」が事前に定まっていれば、その銘柄については一般信用の在庫の増減を気にする必要もなくなりますよね・・・

(4)逆日歩の情報をどうやって入手するか
https://96ut.com/
逆日歩の情報については、こちらのサイトを見るのがよさそうです。
過去の各年の逆日歩と融資残高、貸株残高、差引残高の推移をまとめて見ることができます。

1.「コードを挿入」の横の検索窓に銘柄コード(例えば2730)を入力して[出力]をクリック
2.時系列情報が表示されるので、[逆日歩]のリンク付き文字列をクリック
3.ページ真ん中くらいまでスクロールして「逆日歩実績(1週間)」以下を表示
これで各年の権利確定日を含めて1週間分くらいのデータを見ることができます。

もう少し長い日数のデータが見たい場合や、配当クロス(後段で説明)の対象銘柄の場合は、(2)の[逆日歩]の2つ左の[信用取組]のリンク付き文字列をクリックすると、各年のデータを見ることができます。

(5)配当の情報をどうやって入手するか
これは、単純に「四季報」で入手可能です。もう少し細かい情報が欲しい場合には、
https://irbank.net/
こちらのサイトを利用するとよいと思います。

1.ページ上部の証券コードの検索窓に銘柄コード(2730)を入力して検索
2.[銘柄TOP]の下にあるリンク付き銘柄名(ここでは[エディオン])をクリック
3.表示されたページをだいぶ下までスクロールして、[配当推移]をクリック

そうすると、その銘柄(ここではエディオン)の配当金の推移が表示されます。

この配当金の推移が四季報の配当情報と比較して優れているのは、以下の理由によります。

●配当情報の年数
過去10年以上の配当情報を遡って閲覧することができます。

●速報性
四季報が年4回の更新なのに対し、開示情報から抽出しているためか基本的に常に最新となっています。

●配当予想の変更履歴
配当予想の変更履歴が残っているため、市場参加者が権利確定日段階で想定していた配当を確認することが可能です。

●利回りの表示
配当と配当利回りが併記されていて、配当の12.2%を考慮したときの実質的な最大逆日歩を類推可能です

といったところでしょうか。あと、株式分割の痕跡も残っていますね。パッと確認したいときは四季報で、入念な確認をしたいときはIR BANKといった具合に使い分けるとよいかもしれません。

(6)最大逆日歩について

これは、株価で決まっています。
https://www.taisyaku.jp/media/about-hayamihyo.pdf
右から3列目の100株のところを見ればよいですね。そして、一番左の列に投資単位というのがありますが、これが株価×100となります。

ただ、いちいちこんな表とニラメッコしても仕方がないので、
https://wisewideweb.com/calculator-saikogyakuhibu/
こういうツールを使うのがよいということになります。サイトをいちいち開けるのも面倒だという人は、添付のエクセルシート(逆日歩計算シート)を使って下さい。

(7)最大逆日歩の詳細検討

上記のエクセルシートを見て頂くと、最大逆日歩は「株価と適用倍率、権利日の日数によって決まる」ということが分かります。

適用倍率については、通常の権利落ちの場合は4倍、日証金から注意喚起が出されると8倍、稀に10倍と3段階になっています。逆日歩の日数はカレンダーで簡単に分かりますね。ということは、あとは株価と注意喚起が出されるかどうかで4倍になるのか8倍になるのかが決まるということです。

ここで、「注意喚起」とはいったい何なのか? という話になりますが、これは、日証金が出すものです。

みんなが優待を取りに走って株券が足りなくなると、最後の最後、日証金は大手機関投資家向けに入札を行って株券を調達してくる仕組みになっています。そういう状況に近づいてますよ~というのが注意喚起だと思っておけばOKです。まあ、注意喚起が出されると4倍→8倍へと最大逆日歩が跳ね上がりますので、危ないな~と思ったら現渡ししてしまうという手がありますね。

(8)巨大逆日歩を避けるコツ

「地雷」を避けるためには、「地雷化しそうな要素をそもそも持っているのかどうなのか」という観点で考えるのが大事だと思います。そういった要素を持ち合わせている銘柄を消去法的に避けていけばよいわけです。で、以下がその地雷の要素です。

●飲食系の優待
「逆日歩 高額」といったワードで検索をかけると過去の高額逆日歩の事例を見ることができますが、その多くが飲食系の優待となっています。例えば、

・伊藤ハム(5000円相当のハムが36000円)
・湖池屋(1000円相当のポテチが58240円)
・ホットランド(1500円のたこ焼きが13500円)
・音通(3000円分の蕎麦が90000円)

といった形です。ただ、経験的には、大庄の制度信用で結構美味しい思いをすることがあり、色々と考えた結果、飲食系の優待については「ボラティリティが高い」ということなんだろうな、という風に考えます。この傾向については時価総額はあまり関係がなく、すかいらーくやマクドナルドが常に安全とは言い難い状況です。

ということで、飲食系については安易に制度信用に頼らず、一般信用の優位性が高いという結論に達しました。時価総額が大きい銘柄であれば1ヶ月くらい前くらいまでは一般信用で確保できる銘柄が多いと思いますので、敢えて制度信用でリスクを取る必要はないように思います。

●時価総額

肌感覚的にも実際も、時価総額が大きいほど逆日歩に安定感が見られます。では、どれくらいの時価総額があれば・・・という点については、まず、「100億未満」は対象外とすべきだと思います。それは、時価総額が100億に満たないとなると、機関投資家が保有しにくい仕組みになっていることから、株不足の際に不足分を供出できる主体が不足していることになるからです。

では200億は? 300億は? という話になるのですが、この辺は厳密な線引きが難しく、やはり「大きければ大きいほど安全」としか言えないような気がします。1兆円もあればそれはもう、大丈夫ですので、例えば三井不動産(8801)なんかは一般信用でクロスする必要はないでしょうね(ちなみに、時価総額は3.5兆円です)。

https://96ut.com/stock/yutai_gyakuhibu.php?code=8801

こちらのサイトを見てみると、2019年3月こそ2.25円の逆日歩がついていますが、後は0円に近い水準となっていますね。仮に今回、2.25円の逆日歩が付いたとしても、配当が15円もありますので、15%(2.25円)とほとんど変わりありません。加えて優待ももらえるわけですから、そう考えると三井不動産は「端株を保有して半年ごとに空クロス」で十分だと思います。もちろん、3月末・9月末に資金を食いますので、その点の考慮は必要となりますが・・・

※ 逆説的な説明になりますが、時価総額に絶対的な信頼を置かないようにして下さい。時価総額が大きくても逆日歩が肥大化するケースは結構ありますので、直前の取り組みの方が重要と考えるべきだと思います。

●過去に最大逆日歩(MAX)が付いた銘柄

過去にMAXが付いた銘柄は、今後もMAXが付く可能性があります。何が理由なのかは別として、その「何かの理由」があったからこそMAXが付くわけですから。そういう銘柄に手を出すのであれば、時価総額が大きく増えたとか、何か別の理由を求めたいところですね。

●月末以外と閑散月

制度クロス参加者には、「色々な人がいる」と考えるべきだと思います。何しろ最終日にお手軽にクロスできますし、長期のクロスも不要ですので資金負担が長期化するわけでもありません。ということは、

・2年前の巨大逆日歩を覚えていない
・初めて目にした銘柄にすぐ手を出す
・制度クロスポジポジ病

こういった人が一定割合存在するという前提で臨むべきだと思います。
そうすると、

・15日、20日の権利銘柄
・閑散月

については、上記の人々を少数銘柄で受け止めることになるわけですから、繁忙月と比較すると制度信用の難易度は各段に高まると考えるべきでしょう。閑散月は避ける→繁忙期ということになりますが、繁忙期はそもそも資金が欲しい月ということになりまして、ここは苦しいところではあるのですが・・・考えれば考えるほど、閑散月の制度信用は地雷度が高いという結論になります。

会員サイトでは、上記のような特徴を検討した上で、制度信用でクロスを取り組むべき銘柄について会員向けに情報提供を行っています。
・等価交換狙い(最大逆日歩が付いても優待価値がコストを上回る)
・売り禁狙い(日証金が早期に売り禁をかけることで逆日歩が高額化する前に制度信用でクロスを取り組む)
といった情報も提供しています。